ただ継ぐだけでは終わる。事業承継を成功させる『理念』と『ブランド』の磨き方
- 研究員 内山統子
- 5月29日
- 読了時間: 4分
研究員の内山です。私が長年、事業承継専門のブランド構築に携わる中で痛感してきたことを、今回はレポートとしてまとめます。
日本には、創業1000年以上を誇る企業が7社存在し、世界で最も老舗企業の多い国でもあります。 長年、地域と共に歩んできた家業たち。しかし、どれほどの歴史があろうと、時代の変化に適応できなければ、存続は難しいのが現実です。
特に事業承継のタイミングは、単なる「経営者交代」ではなく、「未来に向けた変革の好機」でもあります。
本稿では、なぜ事業承継に「理念の刷新」と「ブランド経営」が不可欠なのか、 そしてそれらがどのように企業の持続的成長に寄与するのかを、事例を交えて考察していきます。
事業承継は「経営」だけでなく「思い」の承継
多くの人は事業承継というと「売上」や「組織」など目に見えるものに注目しがちです。 しかし、本質的に大切なのは、 「創業者や先代たちが大切にしてきた思い」、 そして「変わらない価値観」の承継です。
・その地域で、どのように社会に貢献してきたのか。 ・顧客との関係性をどう築いてきたのか。
こうした「企業の魂」を言語化し、後継者や社員と共有できるかが、承継後の一体感と未来を左右します。
そして、そのために必要なのが、「理念」の明文化です。
理念とは、「時代が変わっても、会社が守り続けるべき価値観」を端的に示すもの。 経営者が変わっても、理念があれば、組織はぶれずに同じ方向を向くことができます。
ただし、理念の引き継ぎとは、単なる「踏襲」ではありません。 過去の理念を尊重しながら、 「いまの時代」、「これからの社会」に合わせて再定義していくことが求められます。
過去に縛られるのではなく、過去の本質を未来志向で磨き上げる。 これが、理念刷新の意義です。
ブランド経営とは「変化する覚悟」
理念が「企業の変わらない核」なら、 ブランドは「時代に応じた企業の姿」です。
ブランドとは、単なるロゴやキャッチコピーではありません。 「顧客にどんな価値を届け、どのような世界観を共有していくか」という、総合的な体験そのものです。
そして、ブランドは「時代に合わせて進化」していかなければなりません。
● 消費者の価値観は常に変化し、
● テクノロジーや社会環境も激しく移り変わります。
ブランドが時代に取り残されれば、 たとえ理念が立派でも、顧客との接点を失い、企業は衰退してしまいます。
だからこそ、 「理念=守るもの ブランド=変えるもの」 という視点が不可欠です。
【事例1】虎屋の「革新する伝統」
室町時代後期に創業し、500年以上続く老舗和菓子店「虎屋」。
一見、伝統を守り続けるだけに見える虎屋ですが、 実は、数々の革新的な取り組みを重ねてきました。
● モダンな建築デザインを取り入れた銀座店舗
● 海外展開や、若者向け商品開発への挑戦
それでも、虎屋の根幹には「お客様に喜ばれる菓子づくり」という不変の理念が揺らぐことはありません。
虎屋は、「理念を守りながら、ブランドを進化」**させ続けている好例です。
【事例2】中川政七商店の「工芸をベースにしたブランド刷新」
奈良で創業300年を超える中川政七商店。
業績不振に陥った時、13代目・中川淳氏が行ったのは、 「日本の工芸を元気にする」という理念の再定義でした。
● 全国各地の工芸とのコラボレーション
● 全国直営店の展開
● 工芸産地のプロデュース事業への進出
伝統に固執するのではなく、工芸の本質を現代のライフスタイルに適応させたのです。
その結果、中川政七商店は、老舗でありながら若い世代からも支持される企業へと生まれ変わりました。
事業承継をチャンスに変えるために
事業承継とは、「過去を守るため」ではなく、 「未来をつくるため」のものです。
● 理念を明確にし、時代に合わせて刷新する
● ブランドを磨き、時代に応じた形で変革する
この2つに本気で取り組めるかどうかが、 家業の未来を左右します。
【まとめ】
事業承継は「経営」だけでなく「理念」や「思い」の承継。理念は、時代に合わせて再定義し直すことが重要。ブランドは、理念に基づきながら時代に応じて進化・変化させる。虎屋、中川政七商店に学ぶように、「伝統と革新」の両立こそ、時代を超える秘訣。
あなたの家業が、これからも社会に必要とされ続けるために。「理念刷新」と「ブランド経営」を、次世代への確かなギフトとして引き継いでいきましょう。
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