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中堅企業における事業承継の課題と防止策

日本における中堅企業や中小企業の経営では、事業承継が経営の大きな課題となることがしばしばあります。特に、地方において長年にわたって築き上げてきた企業ほど、カリスマ的なリーダーが経営をリードしてきたケースが多く、そのリーダーが急遽不在になると、組織内外で様々な問題が顕在化するという傾向にあります。ここでは、地方の中堅企業でホールディングスを形成する企業が、カリスマ的な社長の急逝後に事業承継に失敗し、業績が大幅に悪化した事例をもとに、事業承継における問題点と防止策について掘り下げていきます。


1.     事例の経緯:カリスマ社長の急逝が招いた混乱

2.     この事例の企業は、地方を拠点に売上規模が数十億円に達する中堅企業であり、ホールディングスを形成して複数の子会社を運営していました。社長はカリスマ的なリーダーシップで、トップダウン型の経営を行い、№2や№3が子会社の運営を担当しながら、順調に事業が推移していました。 しかし、残酷なことにカリスマ社長は50代の若さで癌により急逝してしまいます。社長の急死後、企業は大きくバランスを崩すこととなりました。


ホールディングスは表面的な相続対策には大きく功を奏しました。持ち株は予定通りすべて奥様が相続し、相続税の支払いもしっかり保険により担保されていたため。外見上は事業承継がスムーズに進んでいるかに見えました。しかし、この企業の事業承継の問題はここからでした。実際には後継者のイズムは全権を握る奥様には、全く引き継がれていませんでした。奥様は入社まもなく、後継者教育も不十分なままの息子と娘を役員に迎えました。これが後に大きな問題を引き起こすことになります。 息子は権力を持ったことを背景に、自分の友人を会社に招き入れ、業務中にゲーム大会を開くなど、会社の規律を無視した行動を取り始めました。これに対して、従業員たちは不満を抱えながらも、それまでの文化が足かせとなり声を上げることができませんでした。


ついに、№3が意を決してこれに異を唱えましたが、奥様は息子の行動を擁護し、結果的に№3を冷遇し始め、彼の権限を次々と奪い挙句の果てには退職せざるを得ない状況に追い込みました。この冷遇を見た従業員たちは次第に不安を募らせ、次第に多くの不満を産み爆発することとなります。一部の社員たちが№3に従って離反し、さらにその社員たちと仲が良かった元請けや下請けの取引先も次々にその会社と取引を停止し№3の会社へ流れる事となりました。結果として、会社の売上は急激に下降し、経営は厳しい状況に陥ります。さらに悪い事は続くもので№3が退職する際、先代社長と約束し、準備されていた退職金も反故にされるという対応が行われたため、№2も不信を募らせ、最終的に退職を決意することとなるのです。そして、売上の大部分がこの二人が設立した新会社に流れ、元の会社は名前は残ったものの、全盛期の10分の1の規模の売上となってしまったのです。

 

3. 事業承継の失敗に潜む問題点

この事例から浮かび上がるのは、企業としてはホールディングス化し、従業員の育成も進んでいたにもかかわらず、根本的な要素が欠けていたために事業承継が失敗したという点です。どのような点が問題であったのか?それをまとめます。

 ① 従業員を尊重する文化が不足していた

カリスマ社長のリーダーシップのもと、企業は業務を円滑に進めてきましたが、トップダウン型の経営スタイルのため、従業員一人ひとりの意見やニーズが十分に反映される機会が少なかった可能性があります。これは、息子が自由奔放な行動を始めた際に、従業員たちが声を上げることができず、結果的に会社の内部で不満が積もり続ける状況を生んだ要因の一つです。 従業員は組織の基盤であり、経営者が彼らを尊重し、その成長や貢献を評価する文化が形成されていなければ、士気が低下し、企業の未来に不安を抱くことになります。この企業では、カリスマ社長が健在であった時期には従業員の不満が表面化しにくかったものの、社長の不在後にその亀裂が大きく露呈しました。


② 人と人との繋がりが軽視されていた

元請けや下請けとの関係性は、単なる取引関係ではなく、人と人との信頼の上に成り立つものです。この企業では、息子や娘が役員に就任した後、そうした信頼関係を十分に引き継ぐことができず、取引先との関係が崩壊しました。企業間の取引は契約によるものですが、長年にわたって築かれた信頼はビジネスにおいて重要な資産です。 この信頼関係が後継者に十分に伝わらなかったため、従業員の離反とともに取引先も離れていき、売上の急激な減少を引き起こす結果となりました。事業承継においては、こうした目に見えない「関係資産」をどのように引き継ぐかが非常に重要です。


 ③ 後継者教育と従業員のコンセンサスが不足していた 後継者教育が不十分であり、加えて従業員に対するコンセンサスも取られていませんでした。息子や娘が突然役員に就任し、従業員たちに十分な説明や説得が行われないまま経営が引き継がれたことで、従業員は新しい経営体制に対する不安を感じました。リーダーシップが期待に応えられなかったことで、優秀な人材が次々と会社を去るという事態を招いたのです。


3.     事業承継失敗を防ぐための対策

このような事態を防ぐためには、いくつかの対策が必要です。企業が持続的に成長し続けるためには、後継者教育の徹底や、従業員との信頼関係を築くためのアプローチが不可欠です。

① 後継者教育の徹底

後継者教育は、経営者が持つべきスキルや知識を継承するだけでなく、企業文化や従業員との関係性を理解するためにも重要です。後継者には、企業の現場での経験を積ませ、外部の教育プログラムや専門家による指導を受けさせるなど、多面的な教育が必要です。今回の事例では、息子や娘が経営者としての適性を十分に身に着けていなかったことが、企業の混乱を引き起こす一因となりました。

 ② 事業承継ロードマップの策定とコンセンサスの確保

事業承継には計画的なアプローチが求められます。後継者の選定から経営権の移行までのプロセスを明確にし、従業員や取引先に対して透明性を持って説明することが重要です。従業員が後継者に信頼を寄せることができるような環境を作り、後継者のビジョンを共有し、共通理解を築くことが求められます。

 ③ 専門家の活用と外部視点の導入

事業承継においては、外部の専門家を活用することが有効です。事業承継コンサルタントや税理士、弁護士などのサポートを受けることで、客観的な視点からのアドバイスを得られます。特に、経営者一族内での感情的な問題や複雑な利害関係を調整する際には、第三者の介入が非常に有益です。


4.     結論

本事例から見えてくるのは、事業承継が単なる形式的な株の移転や役員の交代だけで成功するものではなく、後継者教育や従業員との信頼関係、そして人との繋がりを大切にした経営の姿勢が必要であるという点です。企業が持続的に成長するためには、後継者が企業の価値観を理解し、それを基に経営を行うことが不可欠です。

 
 
 

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