アトツギにこそ“起業”を勧めたい理由 ――今、育成を始めよう
- 研究員 内山統子
- 5月29日
- 読了時間: 5分
こんにちは。研究員の内山です。 本日は、これから家業を引き継ぐ予定の若い世代をどう育てていくかについてお話しします。
じつは、事業承継の準備は「承継の直前」では遅すぎます。 育成は、もっと前から始められるものです。 その「最適なタイミング」と「方法」について、先代の皆さまにぜひお伝えしたいと思います。
先が見えない時代、「やり切った経験」こそが武器になる
かつては、先代の背中を見て学び、堅実に引き継ぐ“秀才型”の後継ぎが理想とされていました。 しかし今は、VUCA(不確実・不安定・複雑・曖昧)と呼ばれる時代です。 いかに真面目に経営をしていても、外的要因で業績が大きく左右されます。
つまり、もはや「完璧な承継」など存在しないのです。
そんな時代に求められるのは、 最初から正解を出せる後継ぎではなく、 「失敗しても立ち上がれる、しなやかな経営者」 です。
そしてその力は、教科書でもOJTでも育ちません。 “やり切った経験”の中でこそ、磨かれていくのです。
育成は「大きな現場」ではなく、「小さな挑戦」から
多くの中小企業が今、事業のダウンサイジングや選択と集中を迫られています。 そんななかで、従来の「手元で10年課長職を経験させてから承継する」という方法は、時代にフィットしなくなってきています。
なぜなら:
● 組織が小さくなるほど、“プレイヤー”よりも“意思決定者”が必要になる
● 与えられた枠内に長くいると、自分の強みや限界が見えてこない
● 今の時代は「10年かけて育てる」余裕がない
からです。
「鶏口牛後(けいこうぎゅうご)」という言葉があります。 ――大きな組織の末端にいるよりも、小さな組織でもトップを経験するほうが成長する。 これはまさに、アトツギ育成にこそ当てはまる言葉です。
だからこそ、サイドビジネスや小さな起業で、“自分でやり切る場”を持たせること。 それが、今の時代に最も合った育成の形なのです。
20代は「人格形成期」。この時期こそ、経営者としての土台を作る
事業承継には10年かかると言われます。 その準備期間として最も効果的なのが、20代での実践経験です。
10代に比べて精神的にも安定し、吸収力と柔軟性のあるこの時期に、 「自分の意思で挑戦し、結果に責任を持つ」経験をしているかどうかは、 将来の経営判断に大きな影響を及ぼします。
反対に30代以降は、家庭や社内責任が増え、リスクを取りづらくなります。 20代のうちに試行錯誤しておくことが、最も失敗のコストが小さく、成長の伸びしろが大きいのです。
だから私は、こうお伝えしたいのです。 「家業に入る前こそ、後継ぎに経営経験を持たせる絶好のチャンスです」
本業での失敗は“痛い”。だからこそ、早めに“外で”試す
家業の中枢に入ってからのミスは、信用・信頼の損失に直結します。 だからこそ、本業でいきなり育てるのではなく、まずは“外”で挑戦させること。
これが最も安全で、かつ実践的な育成方法です。
小さな起業やサイドビジネスは、経営者としての資質を見極める「試金石」になります。 たとえば:
● SNSを活用してインフルエンサーとして活動してみる
● 自社商品を企画し、ECで販売してみる
● フランチャイズ事業に挑戦してみる
● 銀行やクラウドファンディングで資金調達してみる
こうした体験の中で、数字を管理し、チームを動かし、トラブルに対応し、 “経営の縮図”を20代のうちに疑似体験することができるのです。
親の役割は、「安全に失敗できる舞台」を用意すること
後継ぎが一番恐れているのは、「親をがっかりさせること」です。 この不安がある限り、彼らは思い切った挑戦ができません。
だからこそ、先代にしかできない最大の支援は「失敗しても認めること」。 そしてもうひとつ、 「本気で取り組む場を与えること」 です。
必要なのは、財務支援だけではありません。 むしろ大切なのは、心理的安全性、挑戦できる文化、そして何より親からの信頼です。 それだけで、後継ぎの背中は大きく変わります。
後継ぎが“本当の経営者”になるには、時間がかかる
名義変更や株の譲渡で社長になるのは一瞬ですが、 「本当の経営者」になるには、時間と経験が必要です。
実績のない後継ぎには、社員も、金融機関も信頼を寄せません。 そんなとき、起業の経験が“実力の証明”となるのです。
ですから、その第一歩をできるだけ早く――できれば20代のうちに踏み出させてください。
「早く挑戦させること」は、「早く失敗させること」ではなく、「早く学び、早く立ち直る力を育てること」です。
それが、事業を承継させる前の「人づくり」なのです。
「先代の愛」は、挑戦させる勇気
これからの時代に必要なのは、 「失敗しない人」ではなく、 「失敗しても諦めない人」です。
そして、それを育てられるのは―― 他の誰でもなく、先代であるあなたです。
課長として10年守るのではなく、 起業という形で少し“外”に出して、挑戦させてあげてください。起業して糸の切れた凧になることが心配なら、会社を継ぐ準備として、起業にチャレンジことを、本人に自覚させると良いでしょう。
一定の目指す基準も決めておくと、無茶して壊れてしまう恐れも減ります。
失敗しても、戻る場所があることを伝えても可です。
親が本気で信じ、失敗しても認めてくれる。 その経験が、家業の未来を守る力になります。
私たち「先代ファーストの会」も、 共に「挑戦する文化」を次の世代へとつないでいきたいと思っています。
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