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セミナー開催報告:「社会貢献と持続可能な事業構築」

先代ファースト事業承継研究会の研究員、中市です。先日、「先代ファーストの事業承継研究会」にて登壇の機会をいただき、「社会貢献と持続可能な事業構築」をテーマにお話しさせていただきました。本記事では、セミナーで共有した東北企業の先進事例や、そこから見えてきた中小企業におけるCSR活動 と事業承継の統合的なアプローチについてご報告いたします。


1.  背景、 問題点や課題

 

近年経営において「事業承継」と「CSR(企業の社会的責任)」は、それぞれ極めて重要な経営課題として認識されてきているように思えます。しかし、現場の実態を見ると、これら2つのテーマは別々の問題として扱われ、統合的に議論される機会は決して多くありません。

 

特に地方の中小企業においては、「本業の維持‧ 発展」と「後継者への円滑なバトンタッチ」だけで手一杯になりがちです。その中で、脱炭素や環境貢献といったテーマは、「余裕があれば取り組むもの」あるいは「コストアップ要因」として後回しにされてしまうジレンマがあります。

 

しかし、地域に根差した企業だからこそ、地域の環境を守り、地域社会と共に持続可能な経営を目指す姿勢は、次世代への承継において強力な求心力となります。今回のセミナーでは、私がCSRの案件と事業承継系の案件双方に


携わる中で感じていた、「これらを統合的に考えることで、新しい企業価値が生まれるのではないか」という仮説をもとに議論を展開しました。

 

2.  対応策: 愛子観光バス株式会社の事例

 

セミナーでは、地域密着とCSRを事業承継の文脈で体現している好例として、宮城県仙台市の愛子(あやし) 観光バス株式会社の取り組みをご紹介しました。

 

震災を契機とした「信念」 の継承

同社の取り組みの原点は、2011年の東日本大震災にあります。交通マヒが発生した際、市民やボランティアのために多数の臨時バスを運行しました。その際に得られた利益を「社会に役立てたい」と考えたこと、そして震災による停電経験から「電気の大切さ」を痛感したことが、大きな転機となりました。

 

当時の佐藤善明社長は、「本業で得た利益を地域と環境のために役立てよう」という強い信念を持ち、一時的な利益を内部留保にするのではなく、未来への投資へと振り向けました。これは単なる環境対策ではなく、「地域のために何ができるか」という企業の存在意義を問い直すプロセスであり、その精神が事業承継の土台となっています。

 

具体的取り 組み: 太陽光発電とカーボンオフセット

同社が実践したのは、再生可能エネルギーの創出とCO2削減を組み合わせた循環型のモデルです。

 

      太陽光発電の導入: 震災時の臨時収益を活用し、 本社屋上に太陽光パネルを設置。 借入金に依存せず、 余剰利益を原資としたことで経営への負担を最小限に抑えました。


      売電収入の再投資: 発電した電力の売電収入を用いて、 カーボンオフセットのためのクレジット(炭素クレジット) を購入する仕組みを構築。

「太陽が生んだ収益」 で「バスが出すCO2」 をオフセットするという、本業の収益を圧迫しない持続可能なサイクルを実現しました。

 

全国初の認証取得と「地産地消」

2014年には、路線バス事業者として全国初となる環境省のカーボンオフセット認証を取得しました。

 

      オフセット規模: 仙台駅前などを走る路線バス8台の年間CO2排出量、 約235トンを見積もり、 これに見合うクレジットを購入して実質ゼロ運行を達成しました。

      地産地消型オフセット: 使用するクレジットには、 東北地域由来のJ-クレジット(森林吸収や再生エネ創出によるもの) を選定。 地元で創出されたクレジットを購入することで、 環境貢献だけでなく 地域への経済循環も生み出しています。

 

成果と波及効果

この取り組みは、単なる環境活動にとどまらず、本業にも多大な相乗効果をもたらしました。

 

まず、バス車内外に認証マークを掲示することで、毎日1,000人以上が利用する路線バスが「走る広告塔」となり、乗客や地域住民への環境啓発につながりました。「環境に配慮したバス会社」というブランドイメージは、地域からの信頼を高め、貸切バスの引き合い増加などビジネスチャンスを創出しています。

 

また、社内においては社員の環境意識が向上し、エコドライブ(アイドリングストップや穏やかな加減速) が定着しました。これにより燃料コストの削減という経済的メリットも生まれ、安全運転の励行にも寄与しています。環境省や地元メディアからも高く評価され、従業員のモチベーション向上や採用面でのプラス効果も見られています。

 

3.  まとめ

 

今回のセミナーを通じて、CSRと事業承継は、決して別々の課題ではなく、相互に補完し合う関係にあることが再確認できました。特に、登壇された田澤社長の「CSRに関する生の声からは、理念を掲げるだけでなく、現場レベルで泥臭く実践し続けることの重要性を学ぶことができました。高止まりしがちな「SDGsや「脱炭素というテーマに対して、本音で向き合う貴重な機会となりました。

 

愛子観光バスの事例から、中小企業が事業承継とCSRを統合的に進めるためのポイントとして、以下の5点が挙げられます。


1.     余剰利益の有効活用: 一時的な利益を、 将来の企業価値を高める CSR投資(設備導入など) に充てる発想を持つこと。

2.     本業とCSRの連動(CSV的発想) : 寄付ではなく 、 本業のプロセスの中に環境貢献や地域貢献を組み込むこと(例: エコドライブ、

サービスのカーボンオフセット化) 。

3.     地元資源の活用: 地元のクレジット購入や地域課題の解決など、

「地域密着」 を軸に据えることでステークホルダーの共感を得

る。

4.     ステークホルダーの巻き込み: 顧客(乗客) や社員に対し、 取り組みを見える化して共有し、 誇りを醸成する。

5. 公的制度‧ 専門家の活用: 環境省の認証制度や補助金、 専門家の知見を上手く 活用し、 信頼性と実効性を高める。



「先代ファースト」とは、単に先代のやり方を踏襲することではないと、私たちはとらえています。先代が築き上げた地域との信頼関係や経営資源(利益) を活かしながら、時代の要請(環境対応など) に合わせて事業を進化させることこそも本物の事業承継には必要なことです。CSRと事業承継を絡めて生まれる可能性は企業によって様々です。今後も、地域企業の持続可能な発展を支援してまいりたいと思います。

 
 
 

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