事業承継後に“突然あらわれる”退職金問題——港区の三代目中華料理店に起きた現実とは
- 研究員 西明優貴

- 2025年12月13日
- 読了時間: 4分

東京都港区にある三代続く中華料理店。創業期から店を支えてきたベテランシェフは、まさに売上の屋台骨。地域のファンも多く、店の味は彼の手によって築き上げられてきました。
ところが、先代オーナーが高齢を理由に事業を譲渡し、新オーナーへバトンタッチをした直後、**事業承継の現場で典型的に起きる“労働問題”**が姿を現します。
■ 先代が「口頭で約束した退職金」
先代オーナーは、長年尽くしてくれたシェフに対して
「定年になったら退職金を支払うよ」
と伝えていました。しかし 退職金規定は存在せず、金額も算定方法も不明確。いわば“善意の口約束”のまま事業承継のタイミングを迎えてしまったのです。
新オーナーが弁護士に確認すると、
「退職金規定がないなら法的義務はない」
という回答。
法律上は支払わずとも問題はない——ただし、ここには大きな落とし穴がありました。
■ 売上が減少する中で「退職金を待ってほしい」と頼んだ結果…
事業承継後、中華料理店の売上は年々減少。
新オーナーは店舗運営そのものに余裕がなくなり、退職金を支払うにしても時期を見直さざるを得ない状況に陥ります。
そこでシェフに対し、
「退職金は支払いたいが、少し待ってほしい」
と相談。
しかし、シェフにとって退職金は「先代からの約束」。
長年の貢献に対する評価であり、生活設計にも関わる重大事項です。
こうして、
新オーナー vs シェフ の間で紛争が勃発。
本来、承継前に整理できたはずの問題が、事業承継後に“爆発”してしまった典型例といえます。
■ なぜ事業承継では「退職金トラブル」が頻発するのか?
理由は明確です。
① 先代の“口頭約束”が多い
中小企業では、長年の信頼関係ゆえに文書化されない労務条件が多く、「退職金」もその一つです。
② 労務デューデリジェンスが不十分
財務や契約関係のデューデリジェンスは行われても、
従業員の労働条件・未払い残業・退職金慣行
など、“人的リスク”への調査は後回しにされがちです。
③ 事業承継後に売上・利益が変動し、約束の履行が困難になる
承継後は売上の増減や投資負担が伴うため、先代の約束が新オーナーにとって重荷になることがあります。
■ 事業承継契約に入れるべき文言とは?
このような紛争を防ぐには、事業譲渡契約書に“労働条件に関する明確な取り決め”を必ず盛り込むことが不可欠です。
✔ 事業譲渡契約に記載すべきポイント(例)
退職金の支払い義務の有無
・先代が約束した場合の取扱い
・新オーナーが引き継ぐか否か
退職金の金額または算定方法
労働条件の変更がある場合の先代・従業員への通知方法
未払賃金・未払残業が存在する場合の負担者の明確化
口頭約束・慣行の棚卸しと文書化
これらを曖昧なまま承継すると、今回のような「退職金請求トラブル」「労働条件引き継ぎトラブル」が高確率で発生します。
■ 契約締結前に必ず行うべき“リスクヘッジフロー”
事業承継専門家の立場からお伝えしたいのは、
「労務問題は承継後よりも、承継前に対処した方が100倍ラク」
という事実です。
以下は、実務で推奨している“予防フロー”の一例です。
【事業譲渡前のリスクヘッジフロー】
① 従業員ヒアリング
・口頭で交わされた約束
・慣行的に支払われてきた手当
② 労働条件通知書・就業規則・退職金規定等の確認
・存在しない場合は作成を検討
③ 先代への確認(特に退職金)
・金額・過去の支払実績・従業員への説明状況
④ 労務デューデリジェンス(弁護士・社労士)
・未払賃金・残業代・社会保険・有給義務など
⑤ 契約書への明記
・引き継ぐ労働条件
・引き継がない労働条件
・退職金の扱い
⑥ 従業員への説明と同意形成
・承継後の誤解・不信感を未然に防止
こうしたプロセスがあるか否かで、承継後の平穏さはまったく違います。
■ まとめ:退職金問題は“事業承継の落とし穴”
今回の中華料理店の事例は、決して珍しいケースではありません。
むしろ、
中小企業の事業承継の半数以上で、退職金を含む“労働問題”が潜在リスクとなっている
と言っても過言ではありません。
しかし逆に言えば、
承継前に正しい手順を踏めば、ほぼすべて防ぐことができる
ということでもあります。
■ 詳しい解決策はセミナーで——
是非Facebookもフォローください
本コラムでは概要のみ触れましたが、実務ではさらに、
・退職金慣行の調査方法
・先代との約束の法的効力判断
・契約書の具体的条文例
・従業員トラブルを“未然に防ぐ”コミュニケーション方法
など、より踏み込んだ内容が重要になります。
これらはセミナー内で詳しく解説します。
事業承継を控えている経営者、既に承継したばかりの後継者の方は、
“トラブルになる前”のタイミングで、ぜひご参加ください。




コメント