33 VS 55+55 ― 事業承継と“本当の節税”の話
- 七宮 拓
- 11月25日
- 読了時間: 4分

■第1章 33%を惜しんで110%を失うという罠
多くの経営者は、「節税」という言葉に敏感だ。決算が近づけば「利益をどう圧縮するか」が話題にのぼり、設備投資、保険、コンサル提案──とにかく法人税の負担を軽くするための相談が集中する。確かに“今この瞬間の利益”を減らせば、目に見える節税効果は得られる。
しかし、ここで忘れてはいけない視点がある。法人税の最高税率は約33%である一方、個人の所得税は最高55%、相続税も最高55%。
つまり、「法人税対策」ばかりに気を取られていると、・社長個人の所得・将来の相続この2つの局面で、最大110%分の税負担リスクを抱えることになる。
たとえば無理な設備投資をして当座の法人税は圧縮できたとしても、社長に将来現金が残らなければ、退職金設計にも影響する。相続を迎えるタイミングで内部留保が膨らみ、株価が跳ね上がれば、後継者が支払う相続税は何千万円、時には億単位に膨らむことも珍しくない。
33%の法人税をケチった結果、後で55%+55%の世界で苦しむ。これが事業承継の“典型的な悲劇”である。
本来、節税とは単年度の利益調整ではなく、会社・家族・後継者の未来までを見据えて行う“戦略”である。
事業承継では、株価評価・贈与・所得分散・持株会社の設計、そして社長の老後資金まで、総合的に考えなければならない。法人税だけを減らすために動いてしまうと、かえって“出口”のコストが大きくなる。
だからこそ、経営者が本当に守るべきものは、**「今年の法人税」ではなく「これからの所得税と相続税」**なのだ。その視点を持てるかどうかで、会社の未来は大きく変わる。
■第2章 それでも足りない、本当の「節税」
ここまで読むと、「所得税と相続税の対策が大切だ」ということは理解できる。しかし、事業承継にはもうひとつ、もっと根本的で、もっと恐ろしい落とし穴がある。
それは──どれだけ節税しても、後継者同士が揉めれば、すべてが水の泡になるということだ。
相続争いは税率の問題よりも深刻だ。争いが起きれば、弁護士・裁判・分割協議・不動産売却・株式の買い取り──本来会社に残っていたはずの資金が、驚くほどのスピードで流出していく。
そして厄介なのは、争いの火種は“節税の出来不出来”とはまったく別のところに存在するという点だ。
銀行が勧めるスキームや、コンサルがつくる立派な承継計画書は、表面上は完璧に見える。書類だけ見れば体裁は整っている。しかし、経営の現場、家族の感情、兄弟姉妹の関係、社内の力関係──それら“人間模様”の問題までは書類ではコントロールできない。
事業承継は数字の作業ではなく、人間関係のマネジメントでもあるのだ。
だからこそ社長は、
どれだけ準備するのか?
誰を思って準備するのか?
その準備はいつ始めるべきなのか?
という“心の軸”をまず固める必要がある。
節税のためではなく、争いを避け、会社を守り、家族の関係を壊さないための準備。そのために必要なのが、信頼できる専門家との二人三脚である。
税理士だけでは片手落ちになる。顧問銀行だけでも危うい。場合によっては、弁護士、社労士、保険、M&A、ファイナンシャルプランナー──複数の専門家が関わるべき総合プロジェクトになる。
そしてその計画は、一度作れば終わりではない。会社の状況、家族の状況、税制改正──すべてが変化する。だからこそ、事業承継対策は“作って終わり”ではなく“見直し続ける”ことが前提なのだ。
■まとめ 節税とは「お金の節約」ではなく「未来の防衛」
33%の法人税を避けるために奔走する経営者は多い。しかし本当に怖いのは、55%の所得税・55%の相続税、そして家族内の争いによって起きる“資金流出”である。
節税とは「いま税金を減らす技術」ではない。会社の未来、家族の幸せ、後継者の人生を守るための総合戦略である。
だからこそ、・今年の利益調整だけに走らず・所得税と相続税を見据え・人間関係を含めてリスクを管理し・信頼できる専門家と長期的に取り組む
こうした姿勢こそが、経営者にとっての“本当の節税”なのだ。




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